平成25年度海外インターンシップレポート
平成25年度海外インターンシッププログラムに参加して
前田建設(香港支店)MTR高速鉄道823B工区での研修
環境システム工学専攻 小久保亘
1.はじめに
2014年3月2日から3月23日までの3週間、高専機構が主催する海外インターンシップに参加し、前田建設工業株式会社(以下前田建設)の香港支店において研修を受けてきました。前田建設は香港において高速鉄道の敷設および緊急救出用待避施設の建設を行っています。ここではその研修について報告します。
2.香港支店について
前田建設はグアム、ベトナム、台湾、スリランカ、アメリカなど14ヶ所に支店や出張所を展開し、香港支店はその中の一つです。香港支店は1963年に海外工事として香港に進出し、以後香港の湾岸工事や地下鉄工事、長大橋、空港のターミナルビル建設など難易度の高い工事の実績を積み上げています。
また香港には十大インフラプロジェクトというものがあり、大きく分けて地域間の交通インフラ整備、香港内の交通インフラの整備、また地区発展開発などが計画されています。香港支店では現在この十大インフラプロジェクトの一つである広州と香港とを結ぶ高速鉄道の工事を行っています。この工事は2010年に受注し2015年の完成を目指しています。この工事が完了すれば香港‐広州間の時間が1時間半から45分に短縮され、また中国本土の高速鉄道とつながることにより、将来香港‐北京間を現在の23時間から8時間まで短縮するものと期待されます。今回私はこの高速鉄道の工事現場で研修を受けてきました。
3.研修内容
今回の研修では第1週目に工事現場の概要の説明を受け、第2週目には歩掛調査を行い、第3週目には引き続き歩掛調査、また研修の成果発表の準備および発表を行いました。
第1週目の工事現場の案内では海外でつくられる構造物と日本でつくられる構造物の品質の違いについての説明を受けました。たとえば日本と香港とで使われる支柱に違いがあります。その違いというのは香港の現場で使われている支柱は日本のものに比べてだいぶ細くつくられているということでした(写真1)。この違いについては、日本は地震大国であるのに対し香港では地震がほとんど起こらないことが理由だとのことです。

写真1 現場の支柱
また日本と香港の構造物の品質の違いについて、日本では許容することはできないコンクリートのひび割れを香港の現場では許容しているということを言っていました。このことを説明してくれた方は、日本で6年間の業務を行ってきており、初めて香港の工事現場を見たときにはかなり戸惑ったと言っていました。しかし、しばらく香港で仕事をしているうちに海外ではこれが当たり前でいわゆるワールドスタンダードであると思うようになったそうです。その方いわく、海外から見れば日本の工事現場が厳しすぎるだけで世界標準はこの現場のようなものだと。私は日本の工事現場を見たことがないため、日本と香港の工事現場との比較はできませんが、今後私が建設業に携わることになったときに今回の香港の現場で見て学んだことを日本の現場と比較することに役立てられれば幸いです。
また今回の研修で私が経験した主な実務としては歩掛調査を行いました。歩掛調査とは毎日の作業の作業人数・施工量・施工時間等を記帳し、作業の進捗状況を調査することです。歩掛調査は建設業に携わる新人にとっては必ず最初に求められる仕事であり、費用や工期を知るうえで基本となる作業です。歩掛調査をとる大切さも詳しく教えてもらったので、私にとってこの経験はこの研修での大きな成果になったと思います。
4.香港の文化や習慣について

写真2 ミーティング
香港の公用語は広東語で香港の人口の88%広東語を話します。ひと昔前ではほとんど広東語しか通じなかったようですが、最近では中国本土で使われる北京語も通じるようになってきているようです。また香港の都市部では英語さらには日本語が通じる場所もありました。研修現場のオフィスでの朝礼や昼のミーティング(写真2)は全て広東語で行われていました。現地の日本人スタッフは皆広東語が堪能でローカルスタッフとは英語ではなく広東語でコミュニケーションをとっていました。もちろん日本人スタッフの方は初めから広東語ができたわけではなく自ら勉強して広東語を覚えていったそうです。また香港では漢字が通じるため広東語を覚えるまでは筆談でローカルスタッフとコミュニケーションをとると教わりました。例えばコンクリートをいつ打設するのかを聞きたい場合“何時concrete”と書けば“3日”とか“明日”などと書いてくれて会話が成立するそうです。ちなみに広東語で“石偏に矢”(写真3)と書けばコンクリートを意味する漢字になり、“打設する”は漢字で“落”と書くそうです。

写真3 コンクリート面と書かれた漢字
また香港の人たちは「あなたは中国人ですか?」と聞かれると約8割の人がNoと答えるらしく、彼らはチャイニーズではなくホンコニーズであるという誇りを持っているそうです。私はそのことを聞くまでは中国と香港をあまり区別していませんでしたが、その話を聞いて香港に対する認識を改めるきっかけになりました。また香港人はプライドが高いという話を聞きました。これは現場の人から聞いた話で、日本では現場を管理する人間が複数いる場合、日本人同士でお互いに実力を探り合うことをするそうですが、香港では必ず上から物事を言ってくるという話を聞きました。なので、香港においては自分の実力を示して信頼を得ていくことが認められる手段なのだそうです。そのことを聞いて私は海外で働くには、英語ができるのは当たり前で現地の言葉を話せることが重要であると思いました。現地語を話せなくては自分の実力を示すことも困難であるし、そもそも下請けの方たちとは現地語で話さなくてはならないので、現地語を話せなくては本当の意味で現場を管理することは不可能であると感じました。
5.最後に

工事現場
今回の海外インターンシップは初めての海外ということもあり不安なこともたくさんありましたが、受け入れてくださった企業や現地の日本人スタッフ、また高専機構の方がバックアップしてくれたおかげで乗り切ることができました。なので、海外だからと言って心配することはなく、今後専攻科に進学する学生は是非この海外インターンにチャレンジしてほしいと思います。もちろん海外では言語の違いにより苦しいとか悔しい思いをすることはありますが、そこでの経験はきっとかけがえのないものになると思います。私も香港で買い物をしているときに言葉が分からず店員に怒られることもあって、そのときはつらかったですが今はそういう経験ができてよかったと思っています。この海外インターンシップはもちろん企業体験ということに主眼を置いていますが、一方で異文化体験も同時に楽しむことができる制度なのでさらに多くの人が利用することを願っています。
最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった高専機構、また私を快く迎え入れてくださった前田建設の方々や香港支店のスタッフに心から感謝いたします。